貴腐(きふ)ワインとは、腐敗したように見える干しぶどう状態の非常に糖度の高いぶどう、『貴腐ぶどう』から造られる最高級の甘口ワインです。
貴腐ぶどうが造られる上で大きな役目を果たしているのが、貴腐菌(ボトリティス・シネレア菌-灰色カビ菌)と呼ばれる菌です。
ぶどう畑にはさまざまな菌がいます。それらの害からぶどうを守るために、つくり手はこまめに畑を観察し、手入れを続けます。ところが、これらの菌の中で「ボトリティス・シネレア菌」は特殊です。
普通この菌は熟成途中のぶどうに付着してぶどうを腐らせてしまいます。ところが限られた地域で、一定の気象条件が整うと貴腐菌の役割が変わります。
その条件とは、夏の間晴天の日が多く、9月から収穫するまでの間、朝もやが立ち、午後になると晴れるというものです。
このような気象条件で、成熟したセミヨン種、リースリング種などの、果皮の薄い白ぶどうの表面に貴腐菌が繁殖すると、果皮の表面のロウ質が溶かされ、そこから果実の水分が蒸発します。
するとぶどうはエキス分(糖分)だけが凝縮した状態の、糖度の非常に高い干しぶどうのような状態になります。
これが「貴腐ぶどう」です。
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貴腐化が進んだぶどうの房
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貴腐ぶどうから造られるワインは糖度が高いため、発酵は長い時間をかけてゆっくりと進みます。
また、ボトリティス・シネレア菌によってグリセリン、グルクロン酸など、さまざまな物質がつくられ、複雑な風味が生まれます。
貴腐ぶどうの粒選り作業 |
貴腐ぶどうから造られたワイン、貴腐ワインは、極甘口(ごくあまくち)、濃厚でコクと旨味のある、芳香豊かなワインです。特にデザートワインとして珍重されています。
貴腐ぶどうを使ったワイン造りが最も盛んに行われているのが、ドイツのライン地方とモーゼル地方(主にリースリング種)フランスのボルドー地方ソーテルヌ地区(セミヨン種、ソーヴィニヨン・ブラン種)ハンガリーのトカイ地方(主にフルミント種)などです。
ドイツのトロッケンベーレンアウスレーゼ、フランスのソーテルヌ、ハンガリーのトカイは、世界三大貴腐ワインと呼ばれています。
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